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今、東雲は混乱の極地にあった。
元々血の気は多い方であり、激しやすいところをかろうじて押さえ込む事が多い東雲であったが、今回のそれは笠を外して額の汗を拭き、わざとらしく首元をゆるめて風を入れ、眼をこすって水を飲んだところでとうていごまかしきれるものでもなかった。
激しい動悸が起こっている。
「……なんという、なんという失態だ……」
事の起こりは三時間ほど前の事だった。
カーシャを離れ、常春の国ではなく、普通の大陸を移動する事になった東雲だが、そうなると季節は丁度新緑の季節。
日さえ選べば、寒くはなく暑過ぎもしないという、丁度いい散歩日よりだったのだ。
久々に一緒にでかけようか、などと恋人であるレイに提案し、近くの草原へと出かけることにした。
近くといっても山育ちの上、忍者の感覚での近くであるため、レイにとっては十分に遠出だったようだが、朝から用意して、弁当を詰めて出かけるのならば、遠出であろうと二人には全く問題なかった。
柔らかな日差しの中、他愛もない話をお互いに代わる代わる話しつつ、目的の草原にたどり着いたときには、すっかり太陽が頂点に達し、遊ぶよりも食事にしようかと笑いあって楽しく食事をすることとなった。
食べれば眠くなるのが道理というが、二人してごろりと転がっていると、レイが不意にウサギの姿へと変わっていた。
なんでも人よりもウサギの姿の方が、草の匂いをよく感じられていいということらしい。
東雲が苦笑いを浮かべて、ほかのウサギと混ざらんよにな、などと冗談を言ったのも束の間。
二人の両目が点になる出来事が起きた。
ぴょこり。そんな擬音が正しいほど、草原に二つの白い何かが立ち上がった。
「!」
レイがめざとくその正体を察する。
そこにいたのは、レイと同じほどの大きさのこうさぎだった。
興奮して走りよるレイ。
相手のこうさぎも仲間がいてうれしいのか、二匹ともじゃれあいながら草原を転がる。
「おいおい、本当に混ざらないでくれ……よ……?」
東雲の言葉が詰まる。
先ほど二匹だけであったウサギ。
だが、いつの間にか次々と草原から耳が生えてくるではないか。
ぴょこ、ぴょこ、ぴょこぴょこぴょこぴょこぴょこ……
緑の草原に突如としてあらわれたウサギの集団。
すっかりとレイはうさぎの中に埋もれてしまっていた。
声は聞こえる。とても楽しそうだ。
おそらくレイにとっては楽園のようなものなのだろう。
だが東雲にとっては気が気ではない。
レイは夢中になると一直線になる節が時々あった。
今回のこれも、夢中になったまま巣にでもつれていかれては、穴ウサギだった時に目も当てられない。
東雲の頬に一筋の汗が垂れた。
「このウサギは……にているが毛並みが悪い、次!
これは……耳が小さい、違う。次!
こいつは大人のウサギだ、まるっきり違う!
ええい、どこだレイさんっ」
東雲が叫ぶ。
まるでひよこの選別業者のように怒濤の勢いでウサギを抱き上げて確認し、違っては降ろす作業をしているが、ウサギがわらわらと現れては東雲にすり寄ってくるので、選別作業は一向に進む様子を見せなかった。
「く……だが、希望は見えている」
そう。大量に現れたウサギはまるで枷を外された子供のように走り回っている。
既にその状態で三十分。
ウサギの体力がつきてきたのか、そこかしこで電池が切れたように眠りこけるウサギの姿が目立ち始めた。
レイもラビトニアンとはいえ、うさぎの姿ではさほど体力があるわけではない。
そうなると、一緒に眠っている可能性もある。
動き回るウサギが少なくなれば、選別作業も一挙に進むと言うものだ
東雲はさらに選別作業の手を進め、ふと手を止めた。
一匹のこうさぎを抱き上げ、顔、耳、体、しっぽとまじまじと見る。
すぴすぴと寝息を立てて眠っているうさぎだが、不意に東雲が腹をくすぐると、びくっと動いて手足をばたばたとさせた。
沈黙が降りる。
東雲の手が動く。うさぎがびくっと身構える。
東雲の手が降りる。うさぎがほっとして息をつく。
「不意打ちだこのうさぎ!」
「うきゅーっ!?」
東雲がわしゃっと腹を乱暴に撫で、耐えきれなくなったうさぎがとうとう叫び声をあげて暴れ出した。
「レイさん、楽しんでいたな?
私が探しているのを楽しんでいたな?」
「ごめんなさいごめんなさいっ、だってあまりに必死なんだものっ」
とうとうお互いが笑いだしてしまった。
レイは最初からわかっていて、わざと元の姿に戻らなかったのだ。
結局二人はそのままわいのきゃいのと言いながら草原で戯れていたが、その様子を見ていたうさぎ達が、一様に首を傾げ、不思議そうに見つめていたのは――餌にもならない、喧嘩のようなじゃれあいだから、だろうか。
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